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ミステリや恋愛ゲームetc.の感想をゆるっと書いているブログ

江神二郎の洞察/有栖川有栖

学生アリスの短編集。文庫化するのをずーーーっと待ってた1冊。
アリスがEMCに入るところから、マリアが入るまでのほぼ1年間を短編で追いかけたものなので、月光ゲームでアリス達のなかに残ったしこりなども端々に描かれてました。

収録作品は

  • 瑠璃荘事件
  • ハードロック・ラバーズオンリー
  • やけた線路の上の死体
  • 桜川のオフィーリア
  • 四分間では短すぎる
  • 開かずの間の怪
  • 二十世紀的誘拐
  • 除夜を歩く
  • 蕩尽に関する一考察

の9編。

ハードロック~は漫画版を読んだことがありましたが、他は未読。
桜川のオフィーリアは、ドラマ版(火村英生の推理)の火村下宿での会話で話題になっていた気が。

学生アリスのほうは、アリスの繊細さや学生のみずみずしい感情がとても好きです。
『開かずの間の怪』や『二十世紀的誘拐』がちょっとした冒険譚という雰囲気でとても良かった。大学生ならでは!って空気が楽しめました。
廃病院でわいわいしてるEMCの面々を漫画でも見てみたいなあと思いました。

事件としては『やけた線路の上の死体』が好き。
最後まで上り・下りの向きを把握できぬまま読み終わってしまいましたが……和歌山~大阪あたりの電車がよくわからない……

マリアが入った後~卒業までの短編集もいずれ、とあとがきに書いてあったので楽しみに待ちたいと思います。孤島パズル以降の事件後のEMCの空気もちらっと読んでみたい。

不埒なロマンス小説の書き方/葉月エリカ

以前感想を書いた「執事の蜜愛に花嫁は喘ぐ」の直後に流れるように購入して読破してました。

変態編集×処女作家(の卵)のカップリングで、概ね執筆中に後ろから…指導と称して…などの表紙から想像できる感じのシチュエーション中心。
西洋文系モノ(?)で欠かせない羽根ペンプレイもあります(巻頭カラー口絵)。

性に奔放な作品を書く母親の原稿紛失の穴埋めとして、恋人がいたこともない主人公が官能小説を書かされるわけですが、主人公いくら何でも流されすぎでは……いやまあTLなのでこれくらいじゃないとお話が成り立たないと思いはしますが……

とはいえラルフのビジュアルと言動が好みだったので満足です。
やることやってても、作品を作ることについてはかなり真剣な所も良かった。ちゃんと寝て仕事して。

小説家モノは男女カップリングかBL、作家は着流しを愛用じゃないと…!!ってくらい着流し作家(男)に執着があるんですが、西洋設定だと女の子が作家の方がいいですね…男の方がフォーマル着てますからね……
(着流し作家はフルバの紫呉さんとか由利先生シリーズ(木下けい子)が好きです。作家じゃなくて本があれば何でもいいのでは…?と思ってしまいますが京極堂も好きです)

結びは「好きになってしまったけれど、この人が私を抱くのは小説のためなんだ…」からの実は両思いでした。という流れ。
よくある展開だし「執事の~」も同じだったけど、TLはこの流れが好きです。
最初に手を出しちゃった時の動機とか、別荘使用のあれこれとか、ラルフがただ攻めるドSキャラ、ってだけではなくて、主人公が悶々としだしてからの気持ちのすれ違いもぐっと来る感じに書かれていてとても楽しめました。
あとは「憧れの書き手に会えたファンというのは暴走しがちなものなんだ」のシーンが可愛かった。

怪しい店/有栖川有栖

読んでしまうのが(初読の作品が減っていくのが)もったいなくて我慢していた作家アリス短編集。
いつもの殺人事件捜査に関わる話と、倒叙ミステリ・日常の謎解き系どちらも楽しめた一冊でした。ミステリとしては『古物の魔』が一番好き。

日常の謎解き系の『潮騒理髪店』は血生臭いミステリではなくて珍しい感じ。
作中でも配役の話を冗談でしていますが、火村の体験をアリスが脳内上映・執筆したって体で読むと、火村とアリスの長年の関係があるからこんなに面白くなるんだろうな~と。(いう妄想をしました。)

『ショーウィンドウを砕く』はドラマで既に見ていたので社長のモノローグが全て宅麻伸で脳内再生されてしまった…。
ドラマの火村は(狂気を孕んだような)危うさが倍増して描かれていた気がするので、最後の「~決行が一日遅かったな」が火村が実際に発した発言のように感じたけど、犯人が火村の目を見て感じたことだったんですね。
作家アリスは「犯人側から見た火村」の描写がとても好きです、火村の内面にある昏いものに犯人の心理が呼応することもあるのかなあ、とか。
今回は『怪しい店』のコマチとアリスの会話のなかでアリスの火村(とその内面や研究)に対する気持ちが語られているのもあって、火村&アリス大好きな人間としてとても良かった~。

有栖川有栖の小説は街の描写が好きなので『古物の魔』も骨董市の描写とアリスがウオマサで切り子を購入するまでの流れも楽しめました。現場に行くときの電車とか風景の描写も好きです。

そして烏賊川市キャラ登場の東川篤哉の解説、同人的なノリを感じた…クロスオーバー系になるのかな、面白かったです。