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ミステリや恋愛ゲームetc.の感想をゆるっと書いているブログ

作家小説/有栖川有栖

『作家』を主人公にした短編8本。
有栖川有栖はミステリしか読んだことがなかったので、てっきりミステリなのかと思っていましたがホラー風味だったり真犯人を明示しないお話だったりで新鮮でした。
(ここではホラー…なのか…?と悩んでミステリカテゴリにしています。)

一番好きだったのは『書かないでくれます?』と『サイン会の憂鬱』です、『夢物語』も何度か読むとハマりそう。

気になったお話の感想をちょっとずつ書きたいと思います。

殺しにくるもの

本を読んだ人、感想を書いた人を作者が殺してまわっていた…という話だと理解しましたが、読者をどうやって割り出していたのか(感想の手紙や日記サイトで?)、殺害手順(主に移動面)など、普段の推理短編集だと解決される部分が全く明かされないままなので、ちょっとだけもどかしさを感じます。

サイン会の憂鬱

そんなに売れていない作家が編集部都合で地元の小さな書店でサイン会をすることになって…
というお話で、『地元に戻りたくない気持ち』『編集に従わざるを得ないやるせなさ』みたいなものが題材なのかな…と思っていたら、段々狂気じみてきて、語り手の主人公が見ているのは現実なのか妄想なのか、夢なのか…?という展開になるのがとても好きでした。
最終部で、夢オチか…と思わせておいて、殺した話だけは本当だった、というのも好き。

書かないでくれます?

雪女伝説の、『自分のことを誰にも話さないこと、と伝えていたのに、のちに結婚した相手(雪女自身が姿を変えていた)に語ってしまい激怒される』という部分をベースにしたお話。
和久井さんが出てきたあたりでオチはだいたい読めてしまうのですが、時々描写される運転手の口元のカットなどを映像で見てみたいと思いました。

夢物語

夢の中から出られなくなった作家が『物語』の存在しない世界にやってきて、シェイクスピアや昔話、映画など記憶にある物語を語ることで英雄扱いされる…というお話。
オチについて幾通りか(少なくとも二通り)の解釈ができるようになっている、と文庫版あとがきにありましたが、いまいち読み切れず…検索したけど考察も見つからなくてもやもやしてます。

彼女の最後の言葉、『とても…素晴らしい物語だわ』という部分。

  • 彼女は『物語』というものを、主人公が語っていたものが自作のものではないと知っていた。
  • 主人公の決死の独白も、彼女にとっては『物語』だと理解された。

このあたりなんでしょうか……
もっと何度も読めばわかるのでしょうか……うーん。

結んで放して/山名沢湖

同人活動(同人誌)』をテーマにした連作短編。

帯の煽り文に
『あの日、あの喫茶店には、漫画を描く人が4人いた。
時を経て、漫画を描き続けているのは千畝ひとりとなったーーー。』
ってあるように、色々な理由で同人活動から離れていく人や、活動を続けていくくるしさ、楽しさが山名先生の柔らかなタッチで描かれていてとても好きです。

じんわり刺さったり、暖かくなったり、自分自身が昔感じた楽しさが思い出されたり、そしてどのお話も最後には泣いてしまう。

同人活動、自分もしていて思うんですけど、やっぱり「趣味」なんですよね。
「趣味」だから、学生の頃は思う存分のめり込めたりする反面、社会人になると、時間の制約・結婚出産・生活サイクルの変化とかで、以前ほどガッツリできなくなることも多いんだと思います。
『もう嫌だ』と思って辞めていく人はこの本の中にいなくて、自然な流れだったり、モヤモヤして段々描けなくなったりで、活動しなくなる人ばかり。
(由加ちゃんの辞める辞める詐欺はありますが)

千畝の一番近い友達が何年も言い続ける『筆を折ったわけじゃない、ネタさえあればまた描くよ~』も、出産後のルリさんの『筆を折ったわけじゃない、でも描いていた感覚も思い出せない』も、誰か・何かが悪いわけじゃない、同人が嫌になったわけでもない。
仕方ないこと、それがわかっていても、そんななかで、プロになって描き続けている千畝は『取り残されている』感じがして寂しさを覚えてしまう。
そんな気持ちが、丁寧に優しく描かれていて。

そよぎや架月が同人から少し離れてみて 『突然描きたいものが溢れてくる』っていう気持ちで復帰したり、ルリさんが子供とぷーすけと3人で本を作って以前の楽しさを思い出していくのを見て、自分のことのように嬉しさや楽しさを感じました。
ぷーすけも親の呪縛からは逃れきれていないものの、同人と違う形でも漫画を続けられて良かった。

自分自身もこれからの活動とか色々悩んだりしているところだったのでこのタイミングで読めて良かったなあと思います。
同人活動をしている人にも、何らかの理由でやめてしまった、停滞している人にもぜひ読んでもらいたい漫画です。

金田一少年の事件簿File(3)/さとうふみや

先日明智警部の事件簿5を読みまして、その勢いで雪夜叉伝説の原作とバンダイチャンネルで98年度放送分を買いました。


その前回の記事

明智警部の事件簿5/佐藤友生 - mkm.txt

にも書いたんですが、明智警部のラストから雪夜叉伝説へーーーっていうのに鳥肌が立って。

アニメの明智警視初登場は蝋人形城に変更されているということで、若干ストーリーも違うのかな、くらいに思ってたんですけど、雪夜叉伝説の明智警視、ほんとに一ミリの擁護もできないくらい嫌な奴だった……………
(原作の方は未映像化の話中心に読んでいるので、雪夜叉は今回が初めてです。)
これが私の大好きな明智警視の初登場なの…って読むの段々つらくなってくる感じの。

はじめは一の当て馬的な役割で登場したんでしょうか。
最近のRや原作後半のイヤミだけど周囲とある程度友好な関係を築いている明智さんを見慣れすぎていて、衝撃的過ぎました……

明智さんまわり以外の展開については美雪が登場しない以外だいたいアニメと同じだったと思います。
セリフ的には一の、犯人のミスリードに乗ってしまった明智さんに対する「あんたはその推理力ゆえに利用されたんだ」みたいなのが好きだったんですけど、原作では嫌な奴過ぎてそんな(ある種の)信頼関係も無く…セリフもなく……

とはいえ金田一世界で特に明智・高遠あたりは本編に出てくるたびにパラレルな感じになってくるので、私の好きなのはアニメ時空かな…と思いつつ、警部~雪夜叉のあたりも脳内補完で楽しみたいと思います。
明智さん、原作でも段々まるく?なってくるし、スピンオフの明智警部だけじゃなくて大学生明智青年のときも結構マイルドなキャラクターな気がするんですよね。

イケメンだし自分でそれをわかってるしいちいちキザだし能力高すぎだし鼻につく言動はあるにしろ、人をバカにはしない(他人にある程度敬意を持って接してる)と思っているので……私の妄想かもしれませんが!

追記:
明智警部から雪夜叉って流れで読んで、嫌な奴って以上に違和感があったんですが、正義に対する気持ちとか、被害者に対する気持ちが全然違うように感じるのがその正体だったのかもしれません。
それでもまあある種パラレルではあると思うので、原作・アニメ・警部と好きな部分を拾って楽しみたいな~と思いました。