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ミステリや恋愛ゲームetc.の感想をゆるっと書いているブログ

結んで放して/山名沢湖

同人活動(同人誌)』をテーマにした連作短編。

帯の煽り文に
『あの日、あの喫茶店には、漫画を描く人が4人いた。
時を経て、漫画を描き続けているのは千畝ひとりとなったーーー。』
ってあるように、色々な理由で同人活動から離れていく人や、活動を続けていくくるしさ、楽しさが山名先生の柔らかなタッチで描かれていてとても好きです。

じんわり刺さったり、暖かくなったり、自分自身が昔感じた楽しさが思い出されたり、そしてどのお話も最後には泣いてしまう。

同人活動、自分もしていて思うんですけど、やっぱり「趣味」なんですよね。
「趣味」だから、学生の頃は思う存分のめり込めたりする反面、社会人になると、時間の制約・結婚出産・生活サイクルの変化とかで、以前ほどガッツリできなくなることも多いんだと思います。
『もう嫌だ』と思って辞めていく人はこの本の中にいなくて、自然な流れだったり、モヤモヤして段々描けなくなったりで、活動しなくなる人ばかり。
(由加ちゃんの辞める辞める詐欺はありますが)

千畝の一番近い友達が何年も言い続ける『筆を折ったわけじゃない、ネタさえあればまた描くよ~』も、出産後のルリさんの『筆を折ったわけじゃない、でも描いていた感覚も思い出せない』も、誰か・何かが悪いわけじゃない、同人が嫌になったわけでもない。
仕方ないこと、それがわかっていても、そんななかで、プロになって描き続けている千畝は『取り残されている』感じがして寂しさを覚えてしまう。
そんな気持ちが、丁寧に優しく描かれていて。

そよぎや架月が同人から少し離れてみて 『突然描きたいものが溢れてくる』っていう気持ちで復帰したり、ルリさんが子供とぷーすけと3人で本を作って以前の楽しさを思い出していくのを見て、自分のことのように嬉しさや楽しさを感じました。
ぷーすけも親の呪縛からは逃れきれていないものの、同人と違う形でも漫画を続けられて良かった。

自分自身もこれからの活動とか色々悩んだりしているところだったのでこのタイミングで読めて良かったなあと思います。
同人活動をしている人にも、何らかの理由でやめてしまった、停滞している人にもぜひ読んでもらいたい漫画です。